

有田川の中流、早月渓谷の水で年間わずか200石ほどを醸す高垣酒造。その看板「龍神丸」は、流通量の少なさから「幻の酒」と呼ばれて久しい。今回は純米吟醸の生原酒を、入手できたタイミングで落ち着いて確かめてみた。
栓を抜くと、まず立ち上がるのはバナナや洋梨を思わせる穏やかな吟醸香。生原酒らしいフレッシュさはあるが、香りが派手に主張するタイプではなく、あくまで含み香として後から追いかけてくる。山田錦を50%まで磨いた割に、香りより味の輪郭で勝負してくる印象だ。
口に含むと、生原酒ならではのジューシーな旨みと、アルコール18度由来のしっかりした飲みごたえが同居する。日本酒度は+4とわずかに辛口側だが、酸度0.9と低めなので、辛さよりも米の甘みと厚みが先に来る。後半でキレるが、余韻には濃醇な旨みが少し残り、これが「龍神丸らしさ」だと感じた。
冷やしすぎると味が締まりすぎるので、10〜13℃あたりで香りと旨みのバランスが最も開く。常温に近づけると角が出てくるため、生原酒は冷蔵管理のまま飲み進めるのが無難。脂のある料理に負けない骨格があり、鰹のたたきや鶏の塩焼きと合わせると、酒の旨みが料理の脂を受け止めてくれる。
四合瓶で2千円台前半から手に入るが、そもそも市場に出回る本数が少なく、見かけたら確保しておきたい一本。派手さで売るのではなく、限られた仕込みで丁寧に造られた濃醇旨口として、和歌山の小蔵らしさが詰まっている。