

滋賀県大津市本堅田、琵琶湖を望む堅田の地で1805年から続く浪乃音酒造が醸す「浪乃音(なみのおと)」。200年以上の歴史を持つ蔵で、規模は小さいながら兄弟で酒造りを担う家族経営の蔵として知られる。この定番の純米酒は、地元志向の食中酒という蔵の姿勢がそのまま表れた一本だ。なお、原料米と精米歩合は公開情報が限られるため、蔵の代表的な構成から玉栄60%を代表値として補った(要確認)。
第一印象は、香りの少なさだ。立ち香はほとんどなく、含み香にうっすらと穀物系の落ち着いた印象がある程度。華やかさを狙った酒ではなく、料理の邪魔をしない無口なタイプである。グラスで香りを楽しむより、食卓で淡々と杯を重ねる酒だと最初の一口で分かる。
味の主役はキレだ。日本酒度+10という数字どおり、口に含むと米の旨みがすっと現れ、酸度1.5前後の引き締まった酸とともに後味が一気に切れていく。甘さの余韻を残さず、舌の上をさっと通り抜ける潔さがある。辛口といっても角が立つわけではなく、旨みがあるぶん飲み飽きしない。淡麗辛口を地で行く、滋賀らしい食中酒の骨格だ。
この酒は燗で本領を発揮する。冷やでもキレを楽しめるが、ぬる燗(40〜50℃)に振ると米の旨みがふっくらと開き、辛口の輪郭がやわらかくほどける。熱燗まで上げてもだれず、燗冷ましでも美味しい。冬場、鍋を前に温度を変えながら飲むと、一本で何度も表情が変わるのが面白い。
ペアリングは、琵琶湖の食文化と地続きだ。焼き魚、鮒寿し、湯豆腐、天ぷらといった素朴な和食に、強いキレと控えめな旨みがよく合う。720mlで1,400〜1,900円ほどと日常使いしやすい価格帯。流通量は限定的だが、近江の郷土料理を引き立てる辛口の食中酒として、地元の食卓に根づいた一本である。