

高島市今津町、琵琶湖の北西岸で酒を醸す池本酒造は、いわゆる「淡麗辛口」の対極を行く蔵だ。比良山系の伏流水を使い、酸と旨みをしっかり出す造りを身上とする。この純米吟醸も、滋賀の食用兼酒造好適米として知られる玉栄を60%まで磨き、軽さよりも飲み応えに軸足を置いた一本。
香りは華やかさより落ち着き重視で、グラスから立つのは熟した果実とほのかな乳酸系のニュアンス。吟醸らしい上品さはありつつ、香りで主張するより味で語るタイプだと、ひと嗅ぎで見当がつく。
口当たりはやわらかく、日本酒度-2のやや甘口設計で、玉栄由来のふくよかな旨みと甘みがまず広がる。ただ酸度1.7がきちんと下支えしていて、甘いだけで終わらず後半はほどよく締まる。蔵の「酸を大事にする」哲学どおり、甘旨の中に芯が通っていて、最後は鈍重にならずに収まる。アルコール15度と落ち着いているので、家飲みでも盃が重くならない。
温度は冷酒(10℃前後)で甘みと酸のバランスが最も整い、常温に戻すと旨みの厚みが前に出てくる。冷やしてすっきり、常温でしっかり、と二段階で表情が変わるので、一本で飲み方を遊べる。
ペアリングは、照り焼きや角煮など甘辛い味付けの料理、中華の甘酢あんとよく合う。甘みのある酒なので、淡白すぎる料理より、しっかりめのタレや出汁を持つ皿に寄せると互いに引き立つ。北湖の蔵らしい、濃醇甘旨の世界を知るのに分かりやすい銘柄。