

大津百町、旧東海道の宿場の面影が残る一角に建つ平井商店は、万治元年(1658年)創業という大津でも屈指の老舗。銘柄「浅茅生(あさぢを)」は皇族から賜った和歌に由来する。蔵の哲学は「食べながら呑んでいたら、いつの間にか無くなっているお酒」。今回はその看板に最も近い、滋賀渡船六号を使った無濾過生原酒の特別純米を開けた。
無濾過生原酒だが、香りはおとなしく、果実香で押してくるタイプではない。立ち上がるのは米のふくよかな香りと、生酒らしいわずかなフレッシュさ。グラスより、ぐい呑みで温度を上げながら飲みたくなる、和の食卓に寄り添う佇まいがある。
味わいは、精米歩合60%・アルコール18度の原酒らしい厚みがありつつ、日本酒度+3・酸度1.9のバランスで、飲み口は思ったよりすっきり。渡船由来の旨みが中盤でふくらみ、後半は酸とともにきれいに引いていく。原酒の濃さと食中酒としての軽快さが同居していて、確かに「気づくと盃が進む」設計だと納得した。
冷やしてフレッシュさを楽しむのも良いが、この酒の本領は常温〜ぬる燗。15℃前後で旨みの輪郭が最も整い、人肌燗にすると米の甘みが優しく開く。冷蔵庫から出して少し置く、その温度変化を楽しめる一本。
地元・琵琶湖の食材との相性が抜群で、鮒寿司や鴨鍋、出汁の効いた和食に寄り添う。近江牛のたたきのような軽めの肉料理にも合わせやすい。大津の郷土の味と一緒に、その土地の空気ごと味わってほしい銘柄。