

滋賀県東近江市で200年余続く喜多酒造の「喜楽長(きらくちょう)」。近江商人の理念「三方良し」を冠したこの純米吟醸は、女性杜氏・喜多麻優子さんが醸す一本として知られる。蔵のある一帯は鈴鹿山系の伏流水に恵まれ、滋賀の米と水で組み立てた地酒の典型を、端正な形でまとめてきた酒だという印象を受けた。
香りは9号系酵母由来の、りんごや洋梨を思わせる穏やかでフルーティーな含み香。立ち香で押してくるタイプではなく、口に含んでから鼻に抜ける設計だ。山田錦を50%、滋賀産の吟吹雪を60%まで磨いて掛けたブレンド構成(ラベル表示の精米歩合は60%)の純米吟醸で、味わいは上品な甘みと米の旨みが一度ふくらみ、そこへ日本酒度+5・酸度1.7のキレがしっかり追いかけてくる。甘く始まって辛く締まる、食中酒として理想的な抜き差しを持っている。
冷酒(10〜13℃)で吟醸香と酸の輪郭が最も整う。温度が上がると甘旨が前に出てやや緩むので、冷たい状態をキープしたい一本。グラスは小ぶりの酒器でも、白ワイングラスでも、それぞれ違う表情を見せてくれる。
ペアリングは食卓の主役を選ばない。刺身、天ぷら、焼き鳥、さらに地元の近江牛のたたきのように旨みの強い料理まで、酸とキレが受け止めてくれる。脂を流しながら次の一口を誘う、いかにも晩酌向きの設計だ。
四合瓶で1,400〜1,800円(720mlの参考上代は税抜1,215円)。酒門の会の特約店を中心に流通する銘柄で、量販店ではあまり見かけないが、見つけたら手に取る価値がある。コストに対する完成度が高く、滋賀の食中酒の基準として推せる一本だ。