

紀土の純米大吟醸 Sparkling は、山田錦を五十%まで磨いて醸した純米大吟醸を、瓶内で二次発酵させて泡を纏わせた本格スパークリング清酒だ。炭酸ガスを後から注入する簡易な発泡酒とは設計思想がまるで違う。たっぷりのおりとともに瓶詰めし、瓶の中でじっくり発酵させることで生まれる、きめ細かく持続する泡が特徴である。IWC二〇一九のスパークリング部門でトロフィーを獲得した実績も、この酒の完成度を裏づけている。
グラスに注ぐと、白い澱がゆるやかに舞い、立ち上る泡はシャンパーニュを思わせるほど細かい。香りはレギュラーの純米大吟醸と同じく上品なメロンや青リンゴ系の吟醸香だが、発泡によって香りがより華やかに開く。生酒で瓶詰めされるため、フレッシュで瑞々しい立ち上がりも魅力だ。
口に含むと、まず細かい泡が舌の上で弾け、続いて純米大吟醸由来のしっかりした旨みと甘みがふくらむ。アルコール度数十四%とやや低めに設計されており、軽快で飲み口がいい。日本酒度ほぼゼロ、酸度1.6という数値どおり、甘みと酸のバランスが取れたうえに、炭酸のキレが後口を一気に洗い流す。余韻は長く引かず、すっと消えるのがこのタイプの正解だ。個性という点では紀土のSKUの中でも際立っている。
飲み頃はしっかり冷やした雪冷え。温度が上がると泡が荒れるので、最後まで冷たく保ちたい。栓を開けるときは澱が舞って吹きやすいので、瓶を立てて静かに開けるのが作法だ。ペアリングは乾杯の一杯として、また食前から食中まで幅広い。生牡蠣、白身魚のカルパッチョ、生ハム、フルーツといった軽やかな素材に、この泡と酸がよく合う。
四合瓶で二千五百円前後という価格は、瓶内二次発酵という手間を考えれば納得のいくところだ。レギュラーの純米大吟醸を発泡という別の文脈に置き換えた一本で、同じ五十%精米の山田錦が泡を纏うとどう変わるかを楽しめる。乾杯の席に日本酒で華を添えたいとき、私はまずこれを選ぶ。