
富山県朝日町、新潟との県境の境(さかい)集落に蔵を構える林酒造場。1626年創業、富山県で最も古い醸造元として知られる。定番の「黒部峡」とは別に、蔵元の杜氏 林秀樹が立ち上げた新ブランド「林」は、適地適作の良質米を100%使う純米仕様で統一されている。今回はその純米(精米歩合60%・五百万石)を、編集長 丸山が卓上で試した。(※この純米は流通量が少なく、日本酒度・酸度は非公開のため、林ブランドの「黒部峡」系の設計傾向から代表値として日本酒度+3前後・酸度1.5前後と置いて評価している)
注いだ色はごく淡い山吹色。立ち香は控えめで、炊いた米とわずかに青みのある穀物のニュアンスがうっすら立つ。派手な吟醸香を狙った酒ではなく、香りで主張しないタイプ。鼻を近づけて初めて、ほのかに白い花のような甘い香りを拾える程度で、香りより口中の密度で勝負する設計だと感じる。
味わいは、五百万石らしいすっきりした入り口から、中盤に米の旨みがふわりと乗り、後半は黒部の伏流水を思わせる硬質で凛としたキレがすっと立つ。甘みは控えめで、日本酒度+3前後らしいシャープな辛口の骨格。べたつかず、しかし痩せてもいない端正な構成だ。温度帯は10〜13℃の冷酒〜涼冷えで輪郭が綺麗に締まり、ぬる燗(40℃前後)に振ると旨みがふくらんで丸くなる。寒い時期は燗もよく合う。
合わせたいのは、富山の食卓を思わせる料理。白身魚の刺身やぶり大根、焼き魚、湯豆腐といった出汁と塩気のある和食に寄り添う。香りで邪魔をしないぶん食中酒としての守備範囲が広く、塩や醤油の塩気を受け止めながら米の旨みで返してくる。香辛料やソースの強い料理だと、せっかくの端正さがかすんでしまう。
派手さで人を驚かせる酒ではないが、香り控えめ・米の旨み・きれいなキレという三点で隙がなく、毎日の食卓で飲み飽きしない完成度。県内最古の蔵が新ブランドで見せる端正な辛口純米として、富山の食中酒を探すなら確保しておきたい一本だと編集部は感じた。