

米鶴酒造は山形県高畠町で1697年(元禄10年)から続く蔵で、古事記・日本書紀にも記された「まほろば(素晴らしい場所)」を冠したこの純米は、高畠の地に根ざした食中酒という性格がはっきりしている。原料米は高畠町酒米研究会が育てた山形県産「出羽の里」、精米歩合60%。派手な香りで売るのではなく、米の旨みときれいなキレで食卓を支える、毎日の一本として頼れる銘柄になっている。
香りは控えめで、吟醸香というより炊いた米や穀物を思わせる落ち着いた含み香が中心。グラスに鼻を寄せても主張は強くなく、料理の香りを邪魔しない設計。出羽の里という穏やかな酒米の素直さがそのまま出ていて、香りで驚かせるより味の厚みで勝負するタイプだと最初の一嗅ぎで分かる。
口に含むと、米の旨みがふっくらと素直に広がり、日本酒度+2・酸度1.2の数値どおり、後半はきれいなキレで引き締まる。甘みと旨みのバランスがよく、やや旨口寄りながら重さは残さず、後口はすっと切れる。クリーン&スムースという蔵の狙いどおりの飲み口で、旨みをしっかり感じさせつつもくどさがない。ワイングラスでおいしい日本酒アワードや国際的なコンペでも評価を得てきた、完成度の高い純米。
温度帯の幅が広く、冷酒(10〜13℃)では旨みとキレのバランスがよく、ぬる燗(40〜45℃)に振ると米の旨みがいっそう膨らんで燗酒としても本領を発揮する。一本で冷やと燗の二つの表情を楽しめるのが食中酒として心強い。ペアリングは、煮物や焼き魚、天ぷらといったしっかりめの和食に素直に重なるほか、旨みがある分クリーム系の料理とも意外なほど相性がよく、食の幅が広い。
価格は四合瓶でおおむね1,200〜1,600円前後とコストパフォーマンスが高い。毎日の晩酌に常備しても負担が軽く、冷やでも燗でも料理に合わせられる懐の深さがある。編集長丸山としては「出羽の里の旨みを素直に楽しめる、高畠の実直な食中酒」として推せる一本。山形の地酒の底力を、肩肘張らずに知るうえでの基準銘柄に挙げたい。