

長野県上伊那郡辰野町の小野酒造店が醸す「夜明け前」は、島崎藤村の小説『夜明け前』にちなんで名付けられた銘柄。元治元年(1864年)創業、標高810mの霧訪山(きりとうやま)の湧水を仕込み水に使う蔵で、その「生一本(きいっぽん)」は山田錦を55%まで磨いた純米吟醸として知られる。
グラスに注ぐと、メロンや洋梨を思わせる穏やかな吟醸香が立ちのぼる。派手すぎず、含み香としても破綻しない上品な香り。一口含むと、ふくよかな米の旨みがゆっくり広がり、その後を心地良い酸が支える。日本酒度はほぼ±0前後で、甘辛のどちらにも振れない中庸のバランス。
温度帯による表情の変化が楽しい一本。冷酒(10〜13℃)では吟醸香と酸のキレが際立ち、常温に近づけると米の旨みがふくらむ。生一本タイプは特に開栓直後のフレッシュな酸が魅力で、冷たいうちに飲み切る飲み方を勧めたい。
ペアリングは、淡い味付けの和食が中心。白身魚の刺身、天ぷら、鶏の塩焼き、信州の蕎麦。香りと酸のバランスが良いので、食中酒として料理を選ばず寄り添う。脂の強い料理よりは、出汁や塩で食べる料理と合わせたほうが持ち味が活きる。
価格は四合瓶で1,800〜2,500円ほど。純米吟醸としては手の届きやすい価格帯で、流通量も比較的安定している。「信州の食中酒系純米吟醸とは何か」を知るうえで、基準のひとつになる銘柄。