

「稲光」は、大信州酒造が金紋錦に焦点を当てた純米大吟醸だ。金紋錦は長野県北部・木島平を中心に栽培される希少な酒造好適米で、栽培の難しさから扱う蔵が限られる品種。大信州はこれを契約栽培で確保し、精米歩合49%まで磨いて醸す。米の名前が立つ酒であり、同じ49%磨きでも「手いっぱい」とは原料の表情で差をつけてくる一本だと編集長・丸山は見ている。
注ぐと無色に近い澄んだ色合いで、金紋錦らしい奥行きのある香りが立つ。デリシャスリンゴや白桃の穏やかな果実香に、ほんのり蜜のニュアンスが重なり、ひとごこち主体の酒よりも甘やかさの輪郭がふっくらしている。北アルプスの伏流水が骨格を支え、香りが暴れず端正にまとまるのは大信州らしい仕立てだ。
含むと、口当たりは柔らかく、金紋錦由来のふくよかな旨みが舌の上で丸く広がる。日本酒度+4前後・酸度1.5あたりで、甘みのあとをきれいな酸とキレが引き締め、余韻はやや長め。透明感を保ちながらも、米の旨みの密度で勝負するタイプで、辛口に振りすぎない上品なバランスがある。冷酒8〜12℃が最も映えるが、12〜14℃でも旨みのふくらみが心地よい。
ペアリングは、甘海老の刺身や湯葉刺し、白身魚の塩焼き、出汁巻き卵といった繊細な旨味系の和食と好相性。金紋錦の甘やかな旨みが、淡い出汁や脂の少ない素材の風味をやさしく持ち上げてくれる。濃い味付けにぶつけるより、素材の甘みを引き出す料理に寄り添わせたい。
価格は四合瓶でおおむね2,200〜2,800円。希少な金紋錦を主役にした純米大吟醸としては手の届く実勢で、品種違いで大信州の表情を比べたい人にちょうどよい。同じ49%磨きの手いっぱいと飲み比べれば、米が変わると透明感の中の甘みがこう変わる、という発見が得られる一本だ。