

水戸部酒造の通年ラインのなかで、最も「日常の晩酌」に寄せて造られているのがこの辛口純米だ。看板の純米吟醸が雄町を55%まで磨いた端正な一本なら、こちらは出羽燦々を60%精米で仕立て、日本酒度+8前後という明確な辛口に振り切った純米酒。価格も四合瓶で1,400〜1,800円前後と、毎日開けられる現実的な設定になっている。
香りはほとんど立たない。グラスからは控えめな穀物香と、蔵共通の涼しい硬水のニュアンスがわずかに感じられる程度で、香りで惹きつけるタイプではない。あくまで料理と杯のためのお酒で、開栓直後から「これは食事の横に置く酒だ」と分かる素直な佇まいがある。
口に含むと、出羽燦々の旨みがすっと乗ったあと、+8の辛さと酸度1.5が一気に後口を切っていく。純米吟醸の上品なキレとは違い、もっと潔く、骨太に断ち切る印象だ。冷酒でシャープに飲むのも良いが、この酒の本領はぬる燗〜熱燗(40〜50℃)。燗にすると辛さの角が取れて旨みがふくらみ、寒い時季の晩酌酒として一段化ける。
合わせる料理は、味の濃いもの・脂のあるものほど映える。光り物の刺身、唐揚げや天ぷらといった揚げ物、もつ煮込み、漬物や塩辛。辛口の酸とキレが脂と塩気をすっとリセットしてくれるので、こってりした皿が続いても杯が重くならない。繊細な出汁料理より、家庭のおかずや居酒屋メニューに合わせてこそ持ち味が出る。
蔵の定番のなかでも特に飲食店や晩酌派に支持される、いわば「土台」のSKU。華やかな酒未来や、自社米の稲造といった個性派を楽しんだあとで、結局ここに戻ってくる——そんな飽きのこなさが、辛口純米の最大の価値だと編集部は見ている。