

島田の大村屋酒造場が春に搾った酒を半年ほど低温でじっくり寝かせ、秋にだけ一度送り出すのが「おんな泣かせ」。年に一度の限定という性格もあって入手しづらい時期があるが、編集部としては慌てて手に入れる種類の酒ではなく、出回った頃に落ち着いて開けたい一本だと感じている。
山田錦と五百万石を50%まで磨いた純米大吟醸で、グラスに注ぐと派手さよりも品の良さが先に立つ。香りはメロンや白い花を思わせるが、輪郭は穏やかで主張しすぎない。静岡酵母らしい線の細い吟醸香で、鼻に抜ける瞬間がきれいだ。
口に含むと、半年の熟成を経た丸みがまず伝わってくる。搾りたての荒さがなく、甘みと旨みがやわらかく溶け合っている。日本酒度は+4とわずかに辛口側だが、数字ほどシャープには感じない。きれいな旨みが中心にあって、最後にすっとキレていく。この「やわらかいのに残らない」バランスが、おんな泣かせの持ち味だと思う。
温度帯は冷酒(10〜13℃)が最も整って感じられるが、常温に近づけても崩れにくい。冷やしすぎると半年寝かせた旨みが閉じてしまうので、少し温度を持たせるくらいがちょうど良い。香りを楽しむなら口の広いグラスを使いたい。
ペアリングは、白身魚の刺身や湯葉、鶏の塩焼きといった淡い味わいの料理が合う。出汁を効かせた煮物とも喧嘩しない。価格は四合瓶で4,000円前後と純米大吟醸としては手の届く水準で、静岡の蔵が造る「端正な熟成酒」を知る入り口として推奨できる。