
常山は福井市で1804年から続く常山酒造の銘柄で、「越前辛口」を掲げてキレと透明感を追求する蔵として知られる。今回向き合ったのは、福井県産の五百万石を使った定番の純米吟醸。派手な限定酒ではなく、蔵の地力が出る一本として編集部が選んだ。グラスに注ぐと色はごく淡く、第一印象は「すっきり、しかし芯がある」。香りや甘みで押してくるタイプではなく、最初の一口から端正な輪郭が立ち上がる。
香りは控えめで、青リンゴや白い花を思わせる穏やかな吟醸香に、米由来のほのかな乳酸系のニュアンスが混じる。鼻を近づけて探りにいく程度の主張で、食事の邪魔をしない設計。華やかな吟醸香を期待すると肩透かしだが、これは欠点ではなく、食中酒として狙った穏やかさだと丸山は受け取った。
味わいは日本酒度+4らしいやや辛口で、五百万石ならではの軽快で締まった旨みが中心。酸度1.5が支える分、ベタつかずにすっと流れていく。最大の魅力は後半のキレで、福井の蔵が言う「越前辛口」の輪郭がここに出る。温度帯は冷酒(8〜12℃)でシャープさが際立ち、常温に寄せると米の旨みがわずかに膨らんで丸くなる。ぬる燗(40℃前後)にすると辛口の骨格が和らぎ、旨みの幅が出るので、燗の適性も持っている。
ペアリングは、淡麗で辛口という性格をそのまま生かせる和食が合う。白身魚の刺身や焼き魚、塩で食べる天ぷら、冬ならおでんや出汁の利いた煮物。塩・出汁ベースの料理と並べると、酒のキレが口中をリセットして次の一口を呼ぶ。濃い味付けや甘いタレの料理よりも、素材の味を立てる料理と組ませたい。
価格は720mlで実勢2,000円前後と、純米吟醸としては手に取りやすい価格帯。華やかさや個性の振り幅で勝負する銘柄ではないが、福井の辛口らしい端正なキレを日常の食卓で確かめたい人には素直に勧められる。香りで魅せる人気銘柄に疲れたとき、食中酒の基準点として常備しておきたい一本。