

全量純米大吟醸を貫く楯の川酒造が「これが楯野川の王道」と位置づけるのが、この主流(しゅりゅう)の山田錦版だ。蔵の標準ラインは山形県産の出羽燦々(でわさんさん)を軸に組まれているなかで、主流はあえて兵庫県産の酒米の王様・山田錦を50%まで磨いて立てている。同じ50%精米でも、清流や中取りの出羽燦々が持つ軽やかな酒質とは出発点が違うことを、まず押さえておきたい。
香りは山形KA酵母由来の華やかでフルーティーな立ち香。口に含むと山田錦らしい厚みのある旨みがゆったりと広がり、日本酒度-3のやや甘口寄りの設計が骨格を支える。酸度1.6が全体を引き締めるので、甘さがだれることなく余韻まで連れていってくれる。アルコールは15〜16度。出羽燦々の清流が「料理を立てる」軽さなら、こちらは「酒が一歩前に出る」濃醇さで、明確にキャラクターが分かれている。
温度帯は冷酒から涼冷えが基本だが、低温熟成で完成度が上がる珍しいタイプでもある。買ってすぐ飲むより、冷蔵庫で数カ月寝かせると角が取れて旨みがまろやかにまとまる。同じ蔵の定番品とは「育てて飲む」楽しみ方ができる点でも差別化されている。
厚みのある酒質は、味の濃い料理と正面から組める。鴨ロース、豚の角煮、鰤の照り焼き、すき焼き。脂や甘辛い味付けに負けず、むしろ山田錦の旨みが料理の余韻を押し上げる。出羽燦々ラインを食中の名脇役とするなら、主流は主役の一杯として献立を組みたい。
35店舗限定流通という位置づけで、通年品の出羽燦々シリーズに比べると入手機会は限られる。四合瓶で2,800〜3,500円。山田錦50%磨きの純米大吟醸としては良心的で、楯野川の「主流」を名乗るだけの完成度がある。出羽燦々の清流・中取りを飲み慣れた人が、次の一歩として手に取ると蔵の幅がよく見える。