
中取り(なかどり)とは、もろみを搾る工程で最も香味のバランスが整う「中間部分」だけを取り分けたもの。搾り始めの荒さも、搾り終わりの雑味も避けた、いわば一番おいしいところだけを瓶詰めした贅沢な造りだ。楯の川酒造はこれを定番の出羽燦々で仕立てており、同じ出羽燦々50%磨きの清流とは「搾りの取り方」で明確に差をつけている。
香りはリンゴや洋ナシ、ほんのり桜桃を思わせる繊細な果実香。口当たりはやわらかく、ほどよい甘みが乗りつつ、酸度1.5が全体を引き締める。日本酒度+2とわずかに辛口寄りで、丸みのある余韻のなかにきりっとした輪郭が残る。バランス重視の清流が「日常の食中酒」なら、中取りは同じ価格帯ながら「ひと手間かけた特別感」を香味の精度で表現している。アルコール15度。中取りだけを集めることで生まれる雑味のないクリアさが、この一本の核だ。
冷酒から涼冷えがよく合う。よく冷やすと果実香と酸のキレが立ち、温度が上がると米の旨みがふくらむ。同じ出羽燦々でも、中取り由来の透明感があるぶん、温度による表情の変化が素直に出る。
ペアリングは繊細な和食。鯛の刺身、帆立のカルパッチョ、蕎麦、天ぷら。雑味がない酒質は素材の味を引き立て、特に魚介の甘みや出汁の旨みと美しく重なる。清流を「常備の一本」とするなら、中取りは来客やちょっとした贅沢の日に開けたい。
四合瓶で2,800〜3,500円。中取りという手間のかかる造りを考えれば納得の価格帯で、清流より少し背伸びした位置づけだ。出羽燦々という同じ米・同じ精米歩合で、搾りの工程ひとつがどれだけ酒質を変えるか。楯野川の造りの丁寧さを味で確かめたい人に薦めたい。