

田光(たびか)は、三重県菰野町で1915年から続く早川酒造の銘柄。鈴鹿山脈・釈迦ヶ岳から流れ込む田光川の伏流水(超軟水)を仕込み水に、全量純米・木槽搾りで丁寧に醸される。今回はその中でも蔵の一番人気とされる純米吟醸の雄町を、編集部として落ち着いて向き合ってみた。
グラスに注ぐと、ほぼ無色透明に近い清らかな見た目。第一印象は「みずみずしさ」の一語に尽きる。軟水仕込みらしい角のない柔らかな口当たりで、肩肘張らずするりと入ってくる。派手さで押すタイプではなく、最初のひと口から雑味のない清潔感が際立つ。
香りは洋ナシや白い花を思わせる穏やかな吟醸香。雄町を使いながら香りは控えめで上品にまとまり、果実香がそっと立ち上がる程度に抑えられている。鼻に抜ける香りと口中の含み香のバランスが良く、香りだけが先走らない設計に好感が持てる。
味わいは、雄町らしいふくらみのある旨みと、きれいな甘みが中心。とはいえ濃醇に振り切るのではなく、菰野の水質を映したような繊細さで全体が整っている。日本酒度マイナス3・酸度1.8あたり(参考値)の甘やかさに、後半の酸がすっと輪郭を引き締め、余韻は重くならずに消えていく。冷酒(8〜12℃)でみずみずしさと香りが最も生きるが、12〜15℃まで温度が上がると雄町の旨みがふっくら開き、表情が二段階で楽しめる。冷やしすぎると味が痩せるので、キンキンよりは「やや冷たい」くらいが扱いやすい。
ペアリングは、白身魚の刺身や鶏の塩焼き、出汁を効かせた炊き合わせなど、繊細な和食の食中酒として優秀。山菜の天ぷらを塩で、といった淡い味付けともよく寄り添う。香りが穏やかなぶん料理を邪魔せず、最後まで盃が進むタイプ。
価格は四合瓶でおおむね2,500〜3,000円。純米吟醸の雄町でこの完成度と飲み飽きしなさを考えれば、日常のローテーションに置きやすい一本だ。而今のような華やかさで一目惚れさせる酒とは方向性が異なり、田光は「きれいな甘旨とみずみずしさ」で静かに評価が積み上がる玄人好み。三重の実力蔵を知る入口として、編集長の丸山としても素直に勧められる。