

静岡県藤枝市の杉井酒造が醸す「杉錦」は、華やかな吟醸が主流の静岡にあって、生酛・山廃といった伝統的な造りを愚直に続ける硬派な蔵として知られる。今回開けたのは静岡県産酒米「誉富士」を山廃で仕込んだ純米。日本酒度プラス9という数字を見た時点で、ただの辛口ではないと身構えた。
香りは華やかさを狙っておらず、穀物や乳酸を思わせる山廃らしい落ち着いたニュアンス。冷やで一口含むと、まず酸とともにシャープなキレが立ち上がる。日本酒度プラス9の超辛口だが、酸度1.5が骨格を支えているおかげで痩せた印象はなく、辛口でありながら旨みのコクをきちんと持っている。この旨みと辛さの両立が、杉錦の真骨頂だ。
冷酒では端正な辛口酒として楽しめるが、この酒の本領はやはり燗にある。ぬる燗(45℃前後)に温めると、山廃由来の旨みと酸がふくらみ、キレはそのままに味の幅が一気に広がる。熱燗(55℃)にしても香りが暴れず、米の力強さが前に出る。レーダーで余韻と個性を高めに振ったのは、温度を上げたときに見えるこの奥行きを評価してのこと。
冷やからぬる燗、熱燗まで、どの温度でも破綻しない懐の深さがあり、一本で季節を通して付き合える。夏は冷やでキレを、冬は燗で旨みを引き出す、そんな飲み分けができる実用性の高い晩酌酒だ。
ペアリングは味のしっかりした和食。焼き魚、おでん、鶏の照り焼き、根菜の煮物。超辛口のキレが料理の脂や甘辛いタレを受け止め、口の中をリセットしてくれる。四合瓶で1,400〜1,700円とこの完成度にしては破格で、燗酒の入門にも、辛口好きの常備酒にも勧められる一本。