

長野市笹ノ井の西飯田酒造店は、県内でも珍しい花酵母を全量に使う蔵。この「超辛口」は、ベゴニアの花から分離した酵母と長野県産美山錦100%を組み合わせた、日本酒度+18という尖った一本だ。数字を見て身構えたが、注いでみるとごく穏やかな柑橘系の香りが立ち、見た目の印象はむしろ涼やか。期待値を上げてグラスに向かった。
一口含むと、+18という数値から想像する「痩せた辛さ」とはまるで違う。確かに甘みはほぼ感じられないが、酸度2.1のしっかりした酸が味の芯を支えており、薄っぺらさが一切ない。旨みは控えめながら骨格があり、辛さが舌の上を走ったあと、酸とともにスパッと消えていく。アルコール17%の飲みごたえも相まって、超辛口でありながら満足感の高い設計だ。
温度帯はかなり広く受け止めてくれる。よく冷やすと柑橘の香りとシャープなキレが前に出て、夏場の食前酒に向く。一方、ぬる燗から熱燗まで上げると、酸が柔らかくほどけて旨みが顔を出し、辛さが角の取れた包容力に変わる。燗映えする超辛口というのは貴重で、冬の食卓でも活躍するはずだ。
合わせるなら、脂や旨みの強い肴がいい。鯵のなめろう、牡蠣の塩焼き、鴨ロースなど、味の濃い料理に酒のキレが切り込んでいく。塩で食べる天ぷらに合わせると、超辛口が油を断ち切って後味を軽くしてくれた。淡白な料理だと酒だけが前に出すぎるので、しっかりした味付けと組ませたい。
四合瓶で二千円台前半。花酵母×超辛口という尖った設計ながら、酸の使い方が巧みで破綻がない。万人向けではないが、辛口好きや「数字だけでない超辛口」を探している人には強く推せる。西飯田酒造店の花酵母シリーズの実力を端的に示す、個性派の一本だ。