

下諏訪の御湖鶴は、もとの蔵が一度休造に追い込まれた後、別企業の事業継承によって設備を一新し、2020年から本格的に仕込みを再開した蔵だ。「再建蔵」と聞くと身構える向きもあるかもしれないが、グラスに注いだ第一印象はむしろ静かで端正。ほぼ無色に近い淡い色合いで、力みのない透明感が最初に伝わってくる。長野県が育成した新しい酒米「山恵錦」を使った純米吟醸で、IWC2021でチャンピオン・サケに選ばれた看板銘柄でもある。
香りは穏やかで、青リンゴや洋梨を思わせる控えめな果実香に、米の含み香がうっすら重なる。派手に立ち上がるタイプではなく、グラスに鼻を近づけてようやく輪郭が見えるくらいの抑制が効いている。華やかな吟醸香を期待すると肩透かしを食らうが、これは食卓で料理の邪魔をしないための設計だと受け取った方がしっくりくる。
味わいは、口当たりがやわらかく、すっと入ってくる軽快さがある。日本酒度はマイナス1前後と中口に近い設定だが(蔵は数値を非公開としており、流通情報からの推定値)、甘さが残るというより、酸が後ろから支えてキレに転じる印象。冷酒(8〜12℃)では透明感とフレッシュさが前に出て、常温に寄せると米のふくらみが少し顔を出す。10℃前後で一番バランスが整うと感じた。燗にするより、冷やしてその繊細さを味わう方が持ち味が生きる。
ペアリングは、白身魚の刺身や山菜の天ぷら、出汁を効かせた煮物といった、味付けの淡い和食と相性がいい。地元らしく信州そばの蕎麦前に合わせても収まりがいい。酸が立っているぶん、脂の軽い料理なら口の中をすっきりと洗ってくれる。一方、香りの強い料理や濃い味付けに合わせると、せっかくの繊細な香味が埋もれてしまう。
価格は四合瓶でおおむね2,700〜3,500円。世界一に輝いた銘柄としては手に取りやすい水準で、純米吟醸の食中酒を一本探している人に勧めやすい。華やかさで押すのではなく、料理に寄り添う繊細さとキレで勝負する一本。諏訪の再建蔵が現在地で何を目指しているかが、ひと口で伝わってくる。