

山形県庄内町の鯉川酒造は1725年(享保10年)創業の蔵で、現在は「旨辛熟成純米蔵」を掲げ、造る酒をほぼ純米に絞り込んでいる。地元の米・自家の井戸水・庄内の風土に根ざした酒造りで、燗にして旨い純米酒を信条とする蔵だ。その日常酒の入口がこの「鯉川 純米 別嬪(べっぴん)」。山形県産「はえぬき」を使い、精米歩合70%、日本酒度+2前後、酸度1.5前後、アルコール15度という、米の旨みを残した旨辛の食中酒設計になっている。
香りは控えめで、炊いた米や穀物、わずかな熟成感を思わせる落ち着いた含み香が中心。吟醸香のような華やかさはなく、料理の香りを邪魔しない佇まいだ。70%という磨きを抑えた純米らしく、香りで驚かせるより味の厚みで勝負するタイプだと最初の一嗅ぎで分かる。
口に含むと、はえぬきらしいふくよかな米の旨みがまず広がり、そこから日本酒度+2の辛口の骨格がじわりと締めにかかる。鯉川が掲げる「旨辛」の言葉どおり、旨みのボリュームと辛口のキレが同居しており、甘ったるさは残さない。酸度1.5前後の酸が後口を引き締め、余韻に米の旨みがほどよく残る。やや濃醇寄りながら重さは引きずらない、晩酌向きのバランスだ。
この酒の本領は燗にある。冷やでは旨みがやや前に出て輪郭が締まるが、40〜55℃のぬる燗〜熱燗にすると旨みと辛口のキレが一段とほどけ、後口が軽やかになる。庄内の冬を支えてきた純米らしい燗映えの良さで、温度を上げるほど表情が開く。ペアリングは焼き魚や根菜の煮物、鍋料理、もつ煮といった出汁と醤油の効いたしっかりめの料理に素直に重なり、燗にすればその相性はさらに増す。
価格は四合瓶でおおむね1,000〜1,300円前後とコストパフォーマンスが高く、毎日の晩酌・燗酒として常備しやすい。なお鯉川には別嬪の純米吟醸や日本酒度+20の「完全発酵」など複数の純米があり、本稿はスタンダードな純米「別嬪」を対象としている。スペックは蔵元・流通各店の公開値に基づく代表値で、原料米・製造年度により前後する。編集長丸山としては「旨辛と燗を素直に楽しめる、庄内の実直な純米」として推せる一本だ。