

いづみ橋は、神奈川県海老名市の泉橋酒造が醸す辛口純米。この蔵の最大の特徴は、全国でも珍しい「栽培醸造蔵」であること。「酒造りは米作りから」を掲げ、地元・海老名近隣で酒米の栽培から精米、醸造までを一貫して手がけている。今回試したのは、その代表格である恵の青ラベル純米吟醸だ。
香りは穏やか。華やかな吟醸香を前面に出すのではなく、軽やかな含み香にとどめてある。自社栽培の山田錦を扁平精米で58%まで磨いており、一口含むと米そのものの旨みがミネラル感を伴って広がる。果実香で惹きつけるモダン系とは対照的で、土地と米に根ざした骨太な味わいだ。蔵が田んぼから関わっているという背景が、そのまま酒質の説得力につながっている。
日本酒度+4前後、アルコール16度という設計どおり、輪郭のはっきりした辛口。中盤の旨みからキレへの移行が早く、後口はすっと切れて杯が進む。冷酒(10〜13℃)でミネラル感とキレが際立ち、常温に戻すと旨みの厚みが顔を出す。甘さに頼らず酸と旨みで構成された、食中酒としての完成度が高い一本だ。
合わせるなら和食、とりわけ出汁を効かせた料理。刺身、焼き魚、塩の天ぷら、煮物や椀物と素直に寄り添い、辛口のキレが料理の脂や塩気を洗い流してくれる。香りが穏やかなぶん食材の風味を立て、食事全体のテンポを整えてくれる。地元の米と水で醸された酒だけに、神奈川の地の食材と合わせると一層しっくりくる。
四合瓶で1,800〜2,200円前後と、自社栽培米の純米吟醸としては納得感のある価格。派手な香りで売る酒ではないが、米作りから一貫する蔵の哲学が一杯に詰まっている。日本酒の背景にあるストーリーごと味わいたい人に、自信を持って勧められる神奈川の名酒だ。