

大垣城下で1744年から続く武内酒造(武内合資会社)は、二度の戦火を乗り越えながら280年酒を造り続けてきた蔵だ。九代目が2012年に清酒造りへ専念する決断をして以来、味の芯が通った食中酒を磨いてきた。「一滴千山」はその新しい顔ともいえる銘柄で、このひだほまれ純米吟醸は蔵の現在地を素直に映している。
岐阜県産ひだほまれを60%まで磨き、岐阜開発のG2酵母で醸している。注ぐと、香りは穏やかで上品。派手な吟醸香ではなく、白い花や洋梨をひそやかに感じる程度で、香りが料理を侵食しない設計だ。冷やして飲むと、口当たりはなめらかで、米由来のやわらかな旨みが静かに広がる。
味わいの軸は、ほのかな旨みと丸みのあるボディ、そして後半の心地よいキレ。日本酒度や酸度の数値はおおむね中庸で、辛さに振りすぎず甘さも残しすぎない、ちょうど中間に着地している(一部の数値は公開情報が限られるため、味わいから推定した代表値)。8〜12℃あたりが香味のバランスがよく、温度が上がると旨みがふくらむ。
合わせるなら、白身魚の刺身、出汁巻き卵、塩の焼き鳥、湯豆腐といった、素材の繊細さを楽しむ和食が好相性。香りがおとなしいぶん、出汁や塩のうま味と素直に溶け合う。脂や濃い味より、淡麗な皿でこそ真価が出る。
水の都・大垣の井戸水で醸された、まろやかで角のない純米吟醸。知名度では県内の有名銘柄に譲るが、食卓での使い勝手のよさは折り紙つきだ。