

磯自慢が山田錦を基軸とする蔵であることは知られているが、その中で異彩を放つのがこの愛山仕込みだ。愛山は栽培の難しさから「幻の酒米」とも呼ばれる希少品種で、磯自慢では秋に純米大吟醸として年一回出荷される季節限定酒。米違いによる表情の差を最もはっきり体感できる一本だと、私は位置づけている。
香りは華やかで、エメラルドボトルの山田錦が示す端正さに対し、こちらはより甘く膨らむ果実香が立つ。愛山特有のふくよかさが、立ち香の段階からすでに顔を出している。
口当たりは柔らかく、含むととろりとした甘みと厚みのある旨みが一気に広がる。日本酒度+3、酸度1.3。数値上は中庸だが、味わいの密度は山田錦仕込みより明らかに濃密で、これが愛山の真骨頂だ。それでいて磯自慢らしい綺麗なキレが後半をまとめ、甘さがだれない。
ペアリングは旨みの強い食材が合う。蟹、湯葉、鴨のロース、脂の乗った白身。酒の甘みと旨みが料理のコクと拮抗し、互いを押し上げる。冷酒10℃前後でその密度を存分に味わいたい。
四合瓶で6,000〜8,000円。年一回の限定ゆえ出会えれば運がいい。山田錦の磯自慢を飲み慣れた人ほど、この米違いの濃密さに驚くはずだ。