

酒田の東北銘醸は全量を生酛(きもと)で仕込む蔵として知られる。その看板の一つが「魔斬(まきり)」で、漁師が使う小刀の名を冠した本辛口の純米酒だ。日本酒度プラス8という数値が示すとおり、甘さに頼らない硬派な設計を編集部でも確かめた。
注ぐと香りは控えめで、米と乳酸を思わせる落ち着いた含み香。口に入れた瞬間は意外なほど穏やかだが、中盤から後半にかけてキレが鋭く立ち上がり、辛口らしいシャープな余韻を残して切れていく。生酛由来の酸が骨格を作り、薄っぺらさとは無縁の辛さに仕上がっている。
辛口と聞くと刺すような印象を持たれがちだが、この酒は冷やすよりも常温〜燗で本領を発揮する。40〜50℃のぬる燗にすると酸と旨みがふくらみ、辛さの角が丸くなって料理に寄り添う表情へ変わる。冷酒一辺倒で評価を決めてしまうのはもったいない一本だ。
ペアリングは、塩焼きの魚や天ぷら、おでんといった出汁や塩を生かした和食と好相性。脂ののった料理でも、この酒のキレが口中をリセットしてくれるため、鶏のから揚げのような揚げ物にも合わせやすい。甘い味付けの料理とはやや喧嘩する。
価格は四合瓶で1千円台半ばと、毎日の晩酌に置きやすい帯。流行の甘旨系とは対極にある「飲み飽きしない辛口」を探している人にとって、生酛仕込みの実力を手頃に味わえる定番として推せる。燗の温度を変えながら付き合うほど評価が上がっていく性格の酒だ。