

静岡県藤枝市岡部の初亀醸造による「初亀(はつかめ)」は、1636年創業と伝わる静岡最古級の老舗蔵。その純米吟醸スタンダードが、兵庫県特A地区・東条産の山田錦を55%まで磨いた「東条山田錦」。グラスに注ぐと色はほぼ無色透明で、いかにも静岡吟醸らしい端正な佇まいから入る。
香りは派手さを抑えた上品なタイプ。立ち香はおだやかで、含むと熟した南国系の果実をうっすら感じる吟醸香が鼻に抜ける。香りで主張するのではなく、料理の邪魔をしない範囲できれいに整えてある印象で、いわゆる静岡型の穏やかな香り設計に忠実だ。
味わいは、山田錦由来の旨みがふっくらと中盤に乗りつつ、後半は柔らかい酸とともにすっと引いていく。日本酒度+3・酸度1.3前後の構成どおり、辛すぎず甘すぎずの中庸からやや辛口寄り。温度帯は冷酒(8〜12℃)で輪郭が締まり、常温〜ぬる燗に寄せると旨みがふくらんで丸くなる。冷やしすぎず、少し温度を上げた帯で本領を発揮するタイプと見る。
ペアリングは、出汁を活かした和食全般。白身魚の刺身、吸い物や茶碗蒸しといった椀物、蒸し物、塩で食べる焼き魚など、淡い味付けと「旨みのある淡麗」がよく共鳴する。香りが控えめなぶん料理を選ばず、食中酒としての懐が深い。
720ml実勢で2,100〜2,800円ほど。純米吟醸としては手に取りやすい価格帯で、特約店で出会える機会も比較的ある。派手な吟醸香で押す現代系とは別の、静岡らしい端正で食事に寄り添う一本として、編集部としては日常の食卓に常備したいクラスと評価する。