

山口県周南市の「はつもみぢ」は、文政2年(1819年)創業、二百年の歴史を持ちながら一度は休業し、十二代目・原田康宏氏のもとで全量純米酒の蔵として再起した小さな酒蔵だ。今回向き合った「原田 純米酒 西都の雫」は、山口県産の酒米「西都の雫」を60%まで磨いた、蔵の食中酒の基準点となる一本。グラスに注ぐとわずかに照りのある澄んだ色合いで、立ち上がる印象は「実直」。派手な吟醸香で気を引くのではなく、米そのものの旨みで勝負しにくる骨格が最初から伝わってくる。
香りは控えめで、炊いた米や栗を思わせる穏やかな含み香が中心。果実香はうっすらと感じる程度で、純米酒らしい落ち着いた香り立ちにまとめられている。香りで主張する設計ではなく、料理の香りを邪魔しないことを優先した造りで、卓に置いても食材の存在を立てる。地元の酒米を全量純米で表現するという蔵の姿勢が、この抑制の効いた香りに表れている。
味わいは、口に含むと米の旨みがしっかりと中盤で広がり、それを酸度1.6の酸が引き締めてキレていく。やや辛口寄りの中庸な甘辛バランスで、淡麗系というより旨みに厚みのあるタイプ。日本酒度は蔵の公開値が変動するため編集部の推定だが、体感としてはきれいに乗る旨みと締まりのある後口の両立が印象的だった。冷酒(10〜13℃)でバランスが整い、ぬる燗(40℃前後)に振ると旨みがふくらんで燗映えする。温度で表情を変えられる懐の深さがある。
ペアリングは和食全般。白身魚の刺身、焼き魚、鶏の塩焼き、出汁を効かせた煮物と素直に合い、米の旨みが料理の旨みと共鳴する。とくに少し塩味や醤油の効いた料理に対して、酒の旨みと酸が下支えするように働く。燗にすれば冬の鍋料理とも好相性で、食卓のどの場面にも置ける汎用性の高さが身上だ。
価格は720mlで1,600〜1,900円前後の実勢。全量純米の小さな蔵が地元の酒米で仕立てた一本としては、十分に手に取りやすい。希少性で押すタイプではないが、二百年の歴史を背負って再起した蔵の「実直な食中純米」を素直に味わえる良酒で、山口の地酒の奥行きを知る一本として常備しておきたい。なお本品は蔵のラインナップ上、特別純米相当の磨きで仕込まれた純米系SKUを基準にレビューしている点を補足しておく。