

山口県萩市の岩崎酒造が手がける「長陽福娘(ちょうようふくむすめ)」は、明治34年(1901年)創業の蔵が城下町・萩で醸す地酒だ。今回試したのは山口県産山田錦を50%まで磨いた純米吟醸。萩という土地柄、目の前に広がる日本海と萩の海の幸に合わせることを前提に造られた酒で、グラスに注ぐと無色に近い澄んだ色合い。最初の印象は「過不足のない端正さ」で、奇をてらわない素直な造りに好感を持った。
香りは穏やかで、洋梨やリンゴを思わせる果実香が控えめに立つ。山田錦を50%まで磨いた純米吟醸らしい透明感のある香り立ちで、香り自体は決して強くないが、含むとふわりと鼻に抜ける含み香が心地よい。香りで主張するのではなく、食事に寄り添うための節度を保った香り設計で、刺身や白身の料理を前にしても香りが浮かない。
味わいは、口当たりがなめらかで、軽やかな甘旨が舌の中央に乗る。日本酒度+4のやや辛口寄りだが、純米吟醸らしい柔らかな甘みが感じられ、酸度1.6の酸が後半を支えてすっと引いていく。淡麗一辺倒ではなく、米の旨みと酸のバランスで中庸にまとめた印象で、飲み疲れしない設計だ。冷酒(10〜13℃)で最もバランスが整い、温度が上がると米の旨みがやや前に出る。盃を重ねても表情が崩れにくい安定感がある。
ペアリングは萩の食卓を思わせる和食全般。白身魚の刺身、鶏の塩焼き、塩で食べる天ぷらといった淡い味付けと素直に合い、酒の酸が脂や塩味をきれいに受け止める。出汁を効かせた煮物や吸い物とも好相性で、繊細な料理の旨みを引き立てる方向に働く。香りが穏やかなぶん料理を選ばず、食中酒として日常的に回せる性格を持っている。
価格は720mlで1,600〜2,000円前後と、純米吟醸として手に取りやすい実勢。山田錦50%磨きでこの価格なら、コストパフォーマンスは十分に高い。プレミアム銘柄のような希少性や強い個性で記憶に残すタイプではないが、萩の海の幸に合わせる端正な食中酒として完成度が高く、山口の地酒を日常で楽しむ入り口として素直に勧められる一本だ。