

八海山という蔵を語るとき、まず手に取ってほしいのがこの特別本醸造だ。純米大吟醸や大吟醸が「八海山の上澄み」を見せる酒だとすれば、これは八海山という蔵の骨格そのもの。四合瓶で1,300〜1,700円という価格帯にこの完成度を収めてくる時点で、南魚沼の造りの底力がよくわかる。
精米歩合は55%。本醸造規格としては磨きすぎなくらい丁寧に米を削っている。五百万石を中心とした原料米と硬めの仕込み水が、日本酒度+4・酸度1.3という数字どおりの、輪郭のはっきりした淡麗辛口を生む。冷やせばシャープに、燗をつければ米の旨みがふくらむ。アルコール添加酒ならではの軽快なキレは、純米系にはない持ち味だ。
香りは穏やかで、ほとんど自己主張しない。これは欠点ではなく設計思想で、料理の匂いを邪魔しないための引き算だと思って飲むと腑に落ちる。八海山の純米吟醸や吟醸が「やや華やかさを足した方向」だとすれば、特別本醸造はもっと素っ気なく、食卓の脇役に徹する。
合わせるなら、味の濃すぎない普段の和食。焼き魚、おでん、天ぷら、冬の鍋。ぬる燗にして大根の煮物とやるのが、個人的にこの酒のいちばん幸せな飲み方だと思っている。グレードを上げた純米大吟醸を「ハレの食中酒」とするなら、こちらは完全に「ケの晩酌酒」だ。
毎日飲んでも財布が痛まず、それでいて雑な酒には絶対にならない。八海山の入口でありながら、結局ここに戻ってくる人が多い一本。最初の一本としても、最後の一本としても勧められる。