

八海山の純米吟醸は、シリーズの中でいちばん「人間味のある」一本だと思っている。精米歩合55%、五百万石を主体に協会701号で仕込んだこの酒は、日本酒度+1・酸度1.7という数字が示すとおり、辛口一辺倒だった八海山の中でわずかに甘みと酸を残し、ふくらみのある純米らしさを前に出している。
特別本醸造や吟醸が「キレで飲ませる」酒なら、こちらは「旨みで飲ませる」酒だ。アルコール添加をしない純米ゆえに、米の甘みと旨みが素直に出る。酸度1.7というやや高めの酸が、その旨みを間延びさせず、後味をきちんと締める。淡麗辛口の蔵が造る純米吟醸らしく、ふくよかでありながらもたつかない、絶妙なバランスに仕上がっている。
純米大吟醸(精米45%・酸度1.3)と比べると、磨きが浅いぶん米の輪郭がしっかり残り、より素朴で力強い印象になる。逆に大吟醸や吟醸のような透明感とシャープさは控えめ。どちらが上という話ではなく、磨きを深めた繊細さを取るか、米の旨みを取るかという好みの分かれ道だ。
温度の許容範囲が広いのも純米吟醸の強み。冷やせば酸が立ってすっきり、常温からぬる燗にすれば旨みがふくらむ。焼き魚や鶏の塩焼き、山菜の天ぷら、出汁の効いた煮物と合わせると、料理の旨みと酒の旨みが素直に響き合う。
派手な吟醸香を求める人には物足りないかもしれない。だが、毎晩の食卓で「米の酒を飲んでいる」という実感が欲しい人には、八海山のラインナップの中でこれがいちばんしっくりくるはずだ。