

福小町を醸す木村酒造は、秋田県湯沢市で1615年(元和元年)創業という400年級の歴史を持つ蔵。この純米吟醸は、秋田県産の酒造好適米を全量使い、精米歩合55%まで磨いた定番の純米吟醸で、華やかさと食中酒としての使い勝手を両立させた、蔵の現在地がよく表れた一本になっている。フランス・パリで開催される日本酒コンクール「Kura Master」で上位入賞を重ねてきた実績もあり、湯沢の地酒として国内外で評価されている。
抜栓してグラスに注ぐと、まず立ち上がるのは穏やかながら華やかな吟醸香。リンゴや洋梨を思わせる果実のニュアンスに、白い花のような軽やかさがうっすら重なる。香りで驚かせるほど強くはなく、料理の香りを邪魔しない程度に整えられているのが、出品酒由来の酵母を使いながらも食中を意識した設計を感じさせる。
口に含むと、やわらかく丸い口当たりから、米の旨みと穏やかな甘みが素直に広がる。日本酒度+2.5・酸度1.2の数値どおり、甘さに寄り切らずきれいな酸が中盤を引き締め、最後はすっと切れていく。全体に角がなく、するすると盃が進む飲み口で、純米吟醸らしい華やぎを持ちながらも、しつこさのない端正なまとまりが心地よい。
温度帯は冷酒(8〜12℃)が最も香りが開き、果実香と透明感のある旨みのバランスが美しい。常温に戻していくと米の旨みが顔を出し、味の輪郭がやわらかくなる。香りを楽しみたいなら冷やでキープするのが正解で、高温に振るより冷たい状態で本領を発揮するタイプ。ペアリングは、白身魚の刺身や天ぷら、鶏の塩焼き、出汁を効かせた煮物など、淡い味付けの和食に広く寄り添う。香りがある分、軽い前菜と合わせても料理の繊細さを消さない。
価格は四合瓶でおおむね1,600〜2,000円前後と、純米吟醸クラスとしては手に取りやすい水準。華やかな香りを入り口に日本酒に親しみたい初心者にも勧めやすく、それでいて食中酒として晩酌にも回せる懐の広さがある。編集長丸山としては「香りと食中のバランスがよく、贈り物にも晩酌にも使える秋田・湯沢の優等生」として推せる一本。なお秋田県産米を全量使う標準品を基準に評価しており、美郷錦などの限定仕込みは数値や味の輪郭が異なる点は補足しておく。