

静岡県富士宮市、富士山の麓に蔵を構える富士高砂酒造の定番「高砂 純米酒」を、編集部として腰を据えて向き合った。仕込み水は富士山の伏流水で、硬度40前後という極めて柔らかな超軟水。その水の素性が、この純米酒の輪郭をそのまま決めている。注いだ色合いはほんのり淡く、最初の一口から軟水仕込みらしい丸い口当たりが舌を包む。蔵が「丸い口当たりと米の旨味」と表現するとおり、派手さで気を引くのではなく、富士の水のきれいさを静かに差し出してくる一本だ。
香りは穏やかで控えめ。グラスに鼻を近づけると、炊いた米や淡い穀物を思わせるトーンがほのかに立つ程度で、吟醸香のような派手さはない。静岡というと静岡酵母由来の華やかな吟醸香を思い浮かべる人も多いが、この定番純米は香りで主張する設計ではなく、卓に置いて料理の香りを立ててくれる方向にきちんとまとめられている。軟水仕込み特有の角のない香り立ちで、含み香にもわずかに米のコクが乗る。
一口含むと、軟水らしいまろやかな旨みが先に来て、中盤にやさしい甘みがふくらみ、後半は静かにキレていく。酸度は1.4で、刺激の少ない柔らかな飲み口にまとまっている。日本酒度については蔵の定番純米の公開値が確認できなかったため編集部の推定だが、体感としてはやや辛口寄りの中庸なバランスで、淡麗に振りすぎず米の旨みもきちんと残るタイプだ。温度帯の懐が深いのもこの酒の魅力で、冷酒(10〜13℃)でみずみずしさが映え、ぬる燗(40〜45℃)に上げると旨みが一気にふっくら開く。蔵が「冷から燗まで」と謳うとおり、温度を選ばず楽しめる。
ペアリングは淡い味付けの和食に素直に寄り添う。白身魚の刺身、塩を効かせた焼き魚、出汁を活かした煮物、湯豆腐といった料理と合わせると、軟水仕込みの柔らかな旨みが料理を後ろから支えてくれる。香りで主張しないぶん食材の存在を立て、毎日の食卓で「料理の隣にいてくれる酒」として使い勝手がいい。燗に振れば味の濃い一皿にも対応できるので、季節を問わず置いておける懐の広さがある。
価格は720mlでおおむね1,300〜1,600円前後の実勢。富士山の伏流水で仕込む老舗の定番純米としては手に取りやすい水準で、日常使いに無理なく置ける。なお本品は蔵の定番「純米酒」を基準にレビューしており、精米歩合・日本酒度は公開値が確認できなかったため超軟水仕込みの味わいから編集部が推定した数値である点を補足しておく。派手さで勝負する銘柄ではないが、富士の水のきれいさをそのまま味わえる静岡の実直な食中純米だ。