

奈良市東部・都祁(つげ)の高原で醸す倉本酒造の「つげのひむろ」は、室町時代に奈良・菩提山正暦寺で生まれたとされる菩提酛(ぼだいもと)仕込みを用いた純米酒だ。同じ奈良の菩提酛でも蔵ごとに表情がまったく違うのが面白いところで、この一本は標高の高い土地ならではの澄んだ水を感じさせる旨口に仕上がっている。
使用米は奈良県産ヒノヒカリ、精米歩合70%。日本酒度-2、酸度2.0という数字から想像できるとおり、甘みと酸がどちらもしっかり主張する濃醇な味わいだ。菩提酛らしい乳酸由来の含み香があり、一口含むと米の甘みがふくよかに広がったあと、高い酸が後味をきりりと締めて、ベタつかせずに切り上げてくれる。
この酸の強さこそが菩提酛の個性で、甘いのに重たくならないのはこの酸のおかげ。冷やしすぎると酸ばかりが立つので、編集部としては12〜15℃のやや冷やか、思い切ってぬる燗にするのを勧めたい。温めると甘みと旨みがほどけ、酸が丸くなって全体のバランスが整う。古酒バージョンも出ている蔵で、熟成と相性の良い酒質なのもうなずける。
濃い味わいなので、ペアリングも一癖あるものが合う。ナチュラルチーズや鴨ロース、すき焼きの甘辛い割り下、味噌田楽のような発酵調味料を使った料理と並べると、酒の酸と料理のコクが互いを引き立て合う。淡白な料理より、脂や甘みのある一皿を選んだほうがこの酒の良さが出る。
四合瓶で1,700〜2,000円ほど。菩提酛という言葉に身構える必要はなく、むしろ「甘みと酸がはっきりした濃いめの純米」として素直においしい。奈良の地酒の歴史的な背景を一杯で味わえる、入門にも通好みにも応えてくれる一本だ。