

精米歩合90%という、磨きを最小限にとどめた米から造られる一本。一般的な吟醸酒が華やかさを競う流れの中で、土田酒造はあえて逆を行く。米の外側に残る旨みと、生酛(きもと)仕込みが生む乳酸由来の複雑な酸を、そのまま酒にしている。グラスに鼻を近づけても派手な吟醸香はなく、代わりに穀物や乳酸飲料を思わせる落ち着いた香りが立つ。
口に含むと、まず厚みのある旨みが舌の上に広がり、続いて酸度2.8前後という数値どおりのしっかりした酸が全体を引き締める。甘さと酸が拮抗し、後半は思いのほかすっと引いていく。低精米だから雑味だらけ、という先入観を持って飲むと裏切られる。荒さではなく、輪郭のはっきりした「米の味」がそこにある。
この酒の真価は温度を上げたときに出る。冷やでも飲めるが、人肌から40℃前後に燗をつけると酸が丸くなり、旨みがふくらんで一体感が増す。編集部で試した範囲では、ぬる燗が最も表情が良かった。冷蔵庫から出してすぐ飲むより、少し置くか温めるかして本領を確かめてほしい。
合わせる料理は、淡白なものより味の濃いものが向く。豚の角煮や味噌を使った煮込み、熟成したチーズ、タレの焼き鳥といった発酵・濃口の食べ物と並べると、酒の酸が脂を切り、旨みが料理の旨みと重なる。繊細な白身魚の刺身などには、やや酒が勝ちすぎる印象がある。
四合瓶で2,000円前後という価格は、この造りの手間を考えれば良心的といえる。万人受けする飲みやすさではないが、「日本酒は磨けば磨くほど良い」という物差しを一度脇に置きたい人にこそ勧めたい。群馬の生酛造りを語るうえで外せない蔵の、思想がそのまま味になった酒。