
京都・伏見の招德酒造(しょうとくしゅぞう)は、1645年創業の老舗で、早くから全量純米化を進めてきた純米酒志向の蔵だ。伏見は「女酒」と呼ばれるやわらかな酒質で知られる土地で、この「招德 純米吟醸 京都の酒」も、伏見の伏流水を生かしたきめ細やかな飲み口に仕上がっている。定番の純米吟醸として、京料理に合わせる食中酒の役割を素直に担う一本だ。
香りは穏やかで端正。白桃や青リンゴを思わせる控えめな吟醸香が、伏見の軟水らしいまろやかな口当たりに乗る。国産米を60%まで磨いた構成で、派手に香りを立てるのではなく、料理と並んだときにそっと寄り添う設計になっている。グラスに注いだ瞬間より、一口含んでから鼻に抜ける含み香に味わいがある。
口に含むと、米の甘みがやわらかく広がり、日本酒度+3・酸度1.4前後の穏やかなキレですっと引いていく。甘すぎず辛すぎず、ちょうど中庸の位置に着地する飲み口で、いわゆる「飲み疲れしない」タイプだ。伏見らしい丸みのある酒質で、角の立つところがなく、最初の一杯から最後まで安定して付き合える。
温度は冷酒から燗まで幅広く対応する。冷やす(10〜13℃)と吟醸香が際立ち、常温に戻すと米のふくらみが顔を出す。ぬる燗にしても崩れにくいが、この酒の持ち味であるやわらかな透明感は、冷や〜常温でこそ素直に楽しめると感じた。
ペアリングは京料理との相性が抜群だ。湯豆腐、白身魚の刺身、京漬物、出汁巻き卵といった淡くて出汁の効いた料理に、低めの酸とまろやかな甘みがよく合う。720mlで1,400〜1,800円ほどと手に取りやすく、流通も比較的安定している。伏見の女酒のやわらかさを知るうえで分かりやすい、京の食卓のための一本だ。