

千代酒造が米の個性を磨き分ける「田圃(たんぼ)」シリーズの中でも、ひときわ通好みなのがこの伊勢錦だ。伊勢錦は山田錦の親系統にあたる希少な古典品種で、栽培の難しさから一時はほぼ姿を消した米。それを66%精米・協会6号酵母で純米に仕立て、無濾過生原酒や中取りで出すのが篠峯の伊勢錦である。山田錦や雄町とは異なる、線の細さと清涼感をあえて生かした一本だ。
香りは穏やかで、柑橘やわずかな青みを思わせる爽やかなトーンが立つ。派手な吟醸香ではなく、古典米らしいすっきりした含み香で、最初の一杯から軽快な印象を受ける。
味わいは伊勢錦らしい引き締まった旨みが芯にあり、雄町ほど厚くはないがしっかりとした骨格を持つ。日本酒度+7のやや辛口に、酸度2.1の旺盛な酸が重なり、後口はシャープに切れていく。アルコール16度ながら重さは感じさせず、口中をすっと洗うようなキレが伊勢錦の身上だ。冷酒では酸と清涼感が際立ち、温度が上がると旨みが少しふくらんで表情が変わる。山田錦の上品さとも、雄町の濃さとも違う、独特の硬質な味わいが楽しめる。
ペアリングはさっぱりした食中で映える。鯵の刺身、焼き魚、酢の物、山菜の天ぷらといった素材の風味を生かした料理に、伊勢錦の酸とキレがよく合う。脂の軽い料理を引き立て、後味を爽やかに流してくれる。
四合瓶でおよそ1,700〜2,100円。希少米を使う純米としては手に取りやすく、伊勢錦という古典品種そのものを味わえる稀少な機会でもある。山田錦・雄町を一通り飲んだうえで、篠峯の米バリエーションをさらに掘り下げたい人に薦めたい一本だ。
※日本酒度・酸度はびん詰時期や火入れ/生で変動。価格は720ml実勢の目安。