

埼玉県蓮田市の神亀酒造は、1987年に全国で最初に全量純米化を成し遂げた蔵として知られる。その看板である定番の「純米酒」は、出荷前に蔵で2年以上の常温熟成を経て世に出る。栓を開けて常温でひと口含むと、華やかさを狙った酒とは対極の、落ち着いた琥珀がかった色合いと、米の旨みを核に据えた骨太な第一印象が立ち上がる。
香りは控えめで、グラスから派手な吟醸香は立たない。代わりに、熟成由来の穀物様やナッツ、わずかに干し柿を思わせる含み香が奥から顔を出す。鼻先で探すより、口に含んでから鼻に抜ける含み香で個性を確かめる酒だと感じた。
味の本領は温度を上げてから現れる。冷やや常温では日本酒度+6・酸度1.6の数値どおり、引き締まった辛口の輪郭と熟成の酸が前に出る。ぬる燗(45〜50℃)に温めると、抑えていた米の旨みがふくよかに開き、酸が旨みを支える構造に変わる。熱燗(55〜60℃)まで上げても香りが崩れず、むしろコクが増す。蔵自身が「燗で楽しむ酒」と案内するとおり、温度帯を動かして真価を引き出す一本だ。
ペアリングは、濃いめの味付けと脂を受け止める料理が合う。煮魚やもつ煮、すき焼き、たれの焼き鳥といった甘辛い和食に燗で合わせると、酒の旨みと酸が料理のコクに重なって互いを押し上げる。淡白な刺身を冷酒で合わせるより、火を入れた料理を燗で迎える使い方が断然似合う。
価格は四合瓶で1,800〜2,200円前後。2年以上の熟成を経た全量純米蔵の定番がこの価格で日常に置けるのは、コストパフォーマンスとして相当に高い。華やかな吟醸酒を入口にした人が「熟成と燗で開く純米」へ一歩進むとき、基準点として手元に置きたい銘柄として推せる。