

東京・青梅、奥多摩の渓谷に蔵を構える小澤酒造の定番純米。元禄15年(1702年)創業という長い歴史を持つ蔵で、敷地の岩盤奥から湧く中硬水を仕込み水に使う。グラスに注ぐとごく淡い山吹色。派手な香りはなく、最初から「これは食卓の酒だ」と語りかけてくる落ち着いた佇まいで、編集部としてもまず姿勢を正したくなる一本だ。
香りは穏やかな含み香。吟醸系の華やかさを期待すると拍子抜けするほど静かで、炊いた米や栗のようなふくよかさが鼻先にうっすら立つ程度。これは欠点ではなく設計どおりで、料理の匂いを邪魔しないための引き算だと丸山は受け取った。香りで主張するのではなく、味で寄り添うタイプである。
一口含むと、米由来のコクと旨みが舌の中央にしっかり乗る。日本酒度+1、酸度1.7という数値どおり、甘辛のバランスは中庸ながら酸がやや高めで、後口はすっと締まる。中硬水仕込みらしい硬質な骨格があり、ぬるく緩んだ印象にならない。温度帯の幅が広いのも持ち味で、冷やでキレを楽しむのもいいが、本領はぬる燗(40〜45℃)。温めると旨みが丸く開き、酸がやわらいで一段とまとまる。熱燗まで上げてもダレないのは精米歩合65%の純米らしい腰の強さだ。
合わせる料理は気取らない和の総菜が似合う。焼き魚、里芋やかぼちゃの煮物、おでん、出汁を効かせた家庭料理。揚げ物では鶏の唐揚げのような脂を、高めの酸が小気味よく流してくれる。淡麗繊細な吟醸酒が苦手とする濃いめの味付けやコクのある料理にこそ強く、燗にして一緒に温度を合わせると相性がさらに上がる。
720mlで1,400円前後と、毎晩の晩酌に無理なく置ける価格帯。突出した華やかさや希少性を求める酒ではないが、東京に二百年以上続く蔵が「風土の酒」として磨いてきた食中純米の完成度は高い。一日の終わりにぬる燗で一合、という飲み方が最もよく似合う、王道にして実直な定番だ。