

日本酒度+12という数字を聞くと身構えるが、いざ口に含むと刺すような辛さではなく、むしろふくらみのある米の旨みが先に立つ。西條鶴醸造の杜氏が「広島流超辛口」と名付けたこの一本は、酒都・西条の軟水仕込みらしい柔らかさを土台に、後半でドライに切れていく設計だ。編集部としても「超辛口」の看板に対する印象が、飲む前と後でずいぶん変わった銘柄だった。
注いだ色合いはほぼ無色透明で、香りは控えめ。吟醸香で主張するタイプではなく、わずかに穀物を思わせる落ち着いた立ち香がある。最初の一口は意外なほど丸く、口中で山田錦由来の旨みがふわりと広がる。その旨みが消えるか消えないかのタイミングで、酸度2.5に支えられたシャープなキレが追いかけてきて、後味は驚くほど早く引いていく。
「+12を感じさせない」と評されるのは、この旨みとキレの時間差のためだろう。冷やしすぎると辛さの輪郭ばかりが立つので、10〜13℃あたりで米のふくらみを楽しみたい。ぬる燗にすると旨みがさらに開き、辛口の角が取れてまろやかになる。一本で温度帯による表情の違いを試せるのは、家飲みで遊べる利点だ。
合わせる料理は、味の濃い肴よりも素材の塩味を生かしたものが良い。焼き魚や鶏の塩焼き、広島らしく牡蠣の酒蒸しと並べると、酒のキレが脂を流してくれて杯が進む。逆に甘辛い煮付けと合わせると、酒のドライさと料理の甘さがぶつかってまとまりにくい。
四合瓶で2,000円を切る価格帯で、食中酒として毎晩のローテーションに入れやすい。派手さで勝負する酒ではないが、辛口好きが「キレるのに痩せていない」一本を探しているなら、候補に挙げて損はない。広島の辛口がどういうものかを知る入口としても勧めやすい。