

深谷といえばネギと渋沢栄一の町、というのが一般的なイメージだろうが、酒好きにとっては滝澤酒造の菊泉の町でもある。明治期創業の蔵で、本社の建物は登録有形文化財。地元の偉人・渋沢栄一の幼名にちなんだ「青淵郷」を冠した純米吟醸を、今回は冷やして向き合った。
グラスに注ぐと、美山錦らしい澄んだ酒質に、りんごや洋梨を思わせる穏やかな吟醸香が立つ。派手に香らせるタイプではなく、料理の邪魔をしない節度のある香り方が好ましい。58%まで磨いた米由来のなめらかな口当たりから、中盤に軽やかな旨みが乗り、日本酒度+3らしいすっきりした辛口で締まる。
飲み口は終始クリアで、酸度1.3が全体を引き締めている。8〜12℃でいちばん香りと輪郭が美しく、温度が上がると旨みが顔を出すが、本来は冷酒で楽しみたい設計。吟醸香はあるが甘さに寄りすぎないので、香り系の純米吟醸が苦手な人にも勧めやすい。淡麗とまではいかない、ほどよく旨みを残した中庸のバランス感が青淵郷の持ち味。
合わせるなら淡い味付けの料理が良い。塩で食べる天ぷら、白身魚の昆布締め、湯葉や冷奴といった素材を生かした和食と相性が良く、鶏の塩焼き程度の軽い動物性まではきれいに受け止める。濃い味噌だれや脂の強い料理だと吟醸香が負けてしまうので、淡麗な皿に寄せて使いたい。
四合瓶で千五百円台から。純米吟醸としては手の届きやすい価格で、香り・旨み・キレのバランスが崩れていない。地元の歴史を背負った銘柄でありながら、味は気負いがなく食中酒として使い回しが利く。深谷の蔵の実力を知る入口として、まず勧めたい一本。