

木戸泉酒造は1879年創業、千葉県いすみ市大原で続く蔵元。この純米は同蔵を代表する銘柄で、ラインナップとしては「醍醐」の名で流通している実在の純米酒を試した(スペックはこの代表SKUを基準に記載)。3代目が確立した高温山廃仕込みという独特の製法で知られ、天然の乳酸菌を高温で立ち上げる手法が酒質の土台になっている。
色合いは薄い山吹色で、すでに見た目から「淡麗ではない」と分かる。香りは控えめで、吟醸香のような派手さはなく、炊いた米や乳酸を思わせる落ち着いたトーン。グラスを回しても香りが暴れない、地に足のついた立ち上がりだ。
一口含むと、酸度2.1という数値どおり、明確な酸が骨格を貫く。山田錦由来の旨みが厚く乗り、その旨みを酸が締めることでだれずにキレていく。日本酒度はほぼ中庸だが、体感はやや辛口寄り。甘ったるさとは無縁で、噛むような旨みと酸のコントラストが個性になっている。
この酒の本領は温度を上げたとき。冷やでも飲めるが、ぬる燗から熱燗にすると旨みが膨らみ、酸が柔らかく溶けて一体感が出る。高温山廃仕込みの酒は燗で崩れにくく、むしろ温めて完成する設計だと改めて感じた。鴨ロースや豚の角煮、おでんといった出汁や脂のある料理に、この酸がよく効く。
四合瓶で2,000円前後という価格は、この個性を考えればかなり良心的。淡麗辛口とも甘旨ジューシー系とも違う、酸を主役にした燗向きの純米として、食卓に常備したくなる一本。千葉の地酒という枠を超えて、燗酒好きに勧めたい。