

賀茂泉と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのが、グラスに注いだときの色だろう。淡い山吹色——炭素濾過をかけない造りゆえに、米由来の色味がそのまま残っている。最近の透明でクリアな酒に慣れた目には少し意外に映るかもしれないが、これが東広島・西条の蔵が掲げてきた「混ぜ物のない米と米麹だけの酒」という思想の表れだと知ると、見え方が変わってくる。1971年に純米醸造の「本仕込賀茂泉」を世に出した、純米酒復興のパイオニアの一本だ。
香りは派手な吟醸香ではない。冷えた状態では穏やかで、グラスを少し温めると蒸した米や栗を思わせる落ち着いた含み香が立ち上がる。華やかなメロンやパイナップル系を期待すると肩透かしを食うが、この酒はそもそも香りで押す造りではない。八反と新千本を58%まで磨きながら、輪郭を磨きすぎず、広島の軟水らしい柔らかさを残している。
味の本領は温度を上げてから現れる。冷酒でも旨みのコクは感じられるが、編集長の丸山が最も推すのはぬる燗(40〜45℃)。温めると米の旨みがふわりと膨らみ、酸が骨格を支えて間延びしない。日本酒度+1、酸度1.6という数字以上に「濃醇」と表現したくなる厚みがあり、それでいて飲み飽きしないキレも併せ持つ。常温(冷や)でもバランスは取れるが、この酒の魅力を一番引き出すのは温めた状態だと言い切ってよい。
合わせたい料理は、温度帯と同じく「温かいもの・コクのあるもの」。出汁の効いた煮物、たれの焼き鳥、おでん、そして広島らしく牡蠣の土手鍋やバター焼き。山吹色の濃いめの旨みが、醤油や味噌のコクとぶつからずに寄り添う。繊細な白身の刺身よりも、しっかり味の付いた家庭料理や鍋ものと合わせたときに真価が出るタイプだ。
価格は720mlで実勢1,800〜2,200円ほど。この味の厚みと燗での伸びを考えると、コストパフォーマンスは相当に高い。冷蔵庫に一本常備して、寒い時期に燗をつけて晩酌に回す——そんな日常使いがよく似合う。蔵元自身がぬる燗を薦め、燗酒のコンテストで金賞を得た実績もある(※公開情報をまとめたもの)。淡麗辛口とは別の、広島・西条が育てた「燗で映える濃醇純米」の世界を知るうえで、入口として勧めやすい一本だ。