

京都・洛中、鴨川のほとりに蔵を構える松井酒造の「神蔵(かぐら)KAGURA」は、享保十一年(1726年)創業という洛中最古の酒蔵が醸す看板銘柄。御所と同じ水脈の超軟水を仕込み水に使い、無濾過・無加水・生酒という潔いスタイルで知られる。今回試したのは京都産の酒造好適米「祝(いわい)」を65%まで磨いて仕込んだ純米の「ルリ」。瑠璃色の瓶が目を引く、生酒らしい力のある一本だ。
栓を開けた瞬間に立ちのぼるのは、ラムネを思わせる爽やかな上立ち香と、フレッシュな生酒由来の微かなガス感。無濾過らしくグラスの中の液体はほんのり霞んで見え、見るからにエネルギーを蓄えた印象を与える。アルコール度数17%の原酒だけあって、香りの段階から飲みごたえを予感させる。
ひと口含むと、まず祝米のふくよかな旨みと、やさしい砂糖のような上品な甘みが口中いっぱいに広がる。無加水の原酒ならではの濃密な味の塊が、舌の上でゆっくりほどけていく。日本酒度+5とスペック上は辛口だが、甘みと旨みが厚いため、数字ほど辛くは感じない。後半は生酒らしい瑞々しい酸とほのかな柑橘のニュアンスがキレを与え、力強い余韻を残して引いていく。約35日という、純米酒の平均より10日ほど長い低温発酵が、この濃密さと複雑さを生んでいるのだろう。
生原酒なので冷蔵保管が前提。よく冷やした状態(8〜12℃)でフレッシュさと旨みのバランスが最も整い、温度が上がるにつれて甘みと旨みがさらに前に出てくる。濃醇な味わいなので、鴨ロースや豚の角煮、ブリの照り焼きといった脂とコクのある料理に負けず、むしろ正面から渡り合う。四合瓶で1,800〜2,300円前後。生原酒ゆえ流通や時期は限られるが、洛中最古の蔵が水と米と発酵だけで描く濃密な純米の世界を、一度は体験してほしい一本だ。