

千葉県夷隅郡御宿町、外房の海辺に蔵を構える岩瀬酒造の定番純米。岩盤の貝殻層を通って湧く硬度約240度という日本屈指の硬水を仕込みに使い、看板の山廃仕込みでこの「辛口純米」を醸す。グラスに注ぐと淡い黄金色で、栓を開けた瞬間から「これは燗で映える骨太な酒だ」と語りかけてくる。地元千葉の酒米・総の舞と初星を使った、土地の個性が素直に出る一本だ。
香りは穏やかで、山廃由来のわずかな乳酸様と熟れた穀物のニュアンスが奥から立つ。派手な吟醸香を狙った酒ではなく、含み香で個性を確かめるタイプ。鼻先で探すより、口に含んでから鼻に抜ける香りで山廃らしさを味わうのが正しい向き合い方だと感じた。
味の核にあるのは、硬水仕込みがもたらす引き締まった骨格だ。日本酒度+4・酸度1.5の数値どおり、甘さは控えめで辛口の輪郭がくっきり立つ。それでいて山廃造りらしいコクと旨みが下支えし、ただ辛いだけの痩せた酒にならない。冷やでは硬質なキレが際立ち、ぬる燗(45〜50℃)に上げると旨みがふくよかに開いて酸とまとまる。熱燗まで温度を上げてもダレず、むしろコクが増すのが硬水・山廃の強みだ。後口の切れの良さは、同価格帯では群を抜いている。
ペアリングは、濃いめの味付けと脂を受け止める料理が合う。煮魚やおでん、たれの焼き鳥、鶏の唐揚げといった甘辛い和食やコクのある料理に燗で添えると、酒の酸と旨みが料理を押し上げる。淡白な刺身を冷酒で合わせるより、火を入れた料理を燗で迎える使い方が断然似合う、晩酌向きの食中酒だ。
価格は720mlで1,400〜1,700円前後。日本屈指の硬水と山廃仕込みという手間のかかる造りがこの価格で日常に置けるのは、コストパフォーマンスとして相当に高い。華やかな吟醸酒を入口にした人が「山廃と燗で開く辛口純米」へ一歩進むとき、基準点として手元に置きたい一本として推せる。