

福島県石川郡古殿町の豊国酒造が醸す「一歩己(いぶき)」の定番、純米原酒を編集部で開けてみた。一歩己は2011年、蔵元・矢内賢征氏のもとで生まれた比較的新しい銘柄で、阿武隈山系の伏流水と丁寧な小仕込みで近年評価を高めてきたシリーズだ。純米原酒は美山錦を60%まで磨き、加水せずに仕上げた原酒で、アルコール16%前後ながら荒々しさはなく、旨みの密度をきれいに束ねた飲み口になっている。
香りは派手すぎず、しかし穀物香一辺倒でもない。鼻を寄せると、炊いた米の香りに、わずかに含み香としてやわらかな果実のニュアンスが重なる。原酒らしい濃さを予感させながらも、立ち香は穏やかで、料理の香りを覆い隠すことはない。小仕込みで丁寧に醸された酒らしい、整った香りの出方が好ましい。
口に含むと、原酒ならではの旨みが密度高く広がり、そのあと酸が後口を引き締めてだれさせない。日本酒度は±0付近の中口で、甘さと旨みが厚く乗りながらも、酸のおかげで後口は思いのほかすっきり切れる。冷酒(10〜13℃)では旨みの輪郭がくっきりし、温度が上がると甘旨みがふくらむ。原酒なので濃さはあるが、ロックや少量加水で表情を変えて楽しむのも面白いタイプだ。なお日本酒度・酸度は公表値が見当たらず、味わいの厚みから整合する代表値を置いている。
ペアリングは、旨みの厚い酒らしく味のある料理によく合う。刺身や焼き魚はもちろん、煮物や鶏の塩焼きといったコクのある和食に、原酒の旨みが堂々と並ぶ。脂のある料理でも酒が負けず、むしろ後口の酸が脂を流してくれる。淡い味付けより、ある程度しっかりした味の料理と合わせたほうが、この酒の密度が生きる。
価格は四合瓶でおおむね1,600〜1,900円前後(実勢)。原酒でこの旨みの密度なら納得の価格帯だ。編集長丸山としては「福島の新世代蔵が小仕込みで丁寧に醸した、旨みのある純米原酒」として推せる一本。派手な吟醸香で攻めるタイプではないが、米の旨みを濃く楽しみたい晩に開けたくなる、満足度の高い純米だ。