

奈良県御所市、葛城山の麓に蔵を構える葛城酒造の主要銘柄「百楽門」。担当した純米酒は「菩提もと仕込み」で、奈良県産のヒノヒカリを精米歩合70%で仕込んだ一本だ。菩提もと(ぼだいもと)は奈良・正暦寺で生まれたとされる古い酒母製法で、日本酒の母なる地・奈良ならではの造り。蔵がこの伝統製法をあえて定番純米に採用しているところに、地元の歴史を背負う気概が表れている。
グラスに注ぐと、わずかに色味を帯びた、落ち着いた佇まい。香りは派手な吟醸香ではなく、乳酸を思わせる酸の香りと、栗や蒸し米のような穀物系のニュアンスが混じる。菩提もとらしい独特の酸の気配が、抜栓直後から鼻に届くのが面白い。華やかさで惹きつけるタイプではなく、味の構造で勝負する、骨太な香り立ちだ。
含むと、日本酒度+13・酸度2という数値が示す通り、辛口の骨格と力強い酸が前面に出る。菩提もと由来の濃密な酸が舌全体を覆い、その奥にヒノヒカリの旨みがしっかり乗る。アルコール分は17度前後と高めで、飲みごたえは十分。後半は酸とともにキレ良く引いていくが、余韻に菩提もとらしい複雑な酸の表情が長く残る。淡麗で軽い純米とは対極にある、濃醇辛口の設計だ。
真価が出るのは燗。ぬる燗(45℃)から熱燗(50〜55℃)へ上げていくと、辛口の角が和らぎ、酸が丸くなって米の旨みが膨らむ。冷やでは酸が前に出てシャープだが、温めると一体感が増し、料理を待つ顔つきに変わる。菩提もとという古い製法が温度でどう開くかを確かめる楽しみのある一本だ。
ペアリングは、味の濃い料理や酸を受け止める皿が好相性。焼き魚、もつ煮、鴨ロース、そして意外なところでチーズとも合う。菩提もとの力強い酸が脂やコクのある料理と共鳴し、後口をすっきり整えてくれる。価格は四合瓶でおおむね1,800〜2,200円(実勢)。奈良発祥の伝統製法をこの価格で日常に取り込めるのは貴重で、辛口好き・燗酒好き、そして造りの背景まで味わいたい人に編集長が勧めたい奈良の個性派だ。