

宝剣酒造の「宝剣(ほうけん)」は地元八反錦を看板にする蔵だが、山形の十四代蔵が育種した酒造好適米「酒未来」を山形県産で取り寄せ、50%まで磨いて純米吟醸に仕立てたのがこの一本だ。八反錦や山田錦という定番から外れた挑戦作で、仕込み本数も限られる限定酒。編集部としても、宝剣の枠を一度外したときに何が出るのかを確かめる意味で注目していた。
香りは酒未来らしい個性が前に出る。ライチやマスカット、トロピカルフルーツを思わせる華やかで甘やかな吟醸香が、八反錦版や山田錦版より一段はっきりと立ち上がる。それでも宝剣らしく香りが暴れ過ぎず、ぎりぎり食中で成立する均衡を保っているのが面白い。
含むと、酒未来由来の厚みのある旨みと果実的な甘みが広がり、日本酒度+3・酸度1.3の数値以上にジューシーな印象を残す。八反錦純米吟醸の+5・キレ主体の設計とは対照的に、こちらは甘み・旨みの密度で押す。後半は宝剣の身上であるキレが効いて重さを残さず収束するため、甘やかでも飲み疲れしない。冷酒(10℃前後)で香りと甘みのバランスが最も整う。
ペアリングは、淡い和食より少しコクのある料理に寄せたい。鴨ロースや豚しゃぶ、鶏の照り焼き、クリームチーズなど、旨みや脂のある皿と合わせると酒の果実味が映える。八反錦や山田錦が和の食卓に寄り添うのに対し、酒未来版は洋の要素にも届く守備範囲の広さがある。
四合瓶でおおむね1,900〜2,300円。限定仕込みで流通量が少ないぶん見かけたら確保したい一本だ。宝剣の定番を一通り飲んだ人が、同じ蔵の別の顔として試すと面白い。広島の辛口蔵が酒未来でどこまで遊べるかを示した、個性派の純米吟醸だ。