

雄町は岡山・備前を発祥とする古い酒米で、栽培が難しい一方、たっぷりとした旨みと厚みのある酒質を生むことで知られる。「オマチスト」という言葉が生まれるほど熱心なファンを抱える米だ。花陽浴(はなあび)の備前雄町は、その雄町の濃醇さと南陽醸造のトロピカルな甘旨が重なり合う、ラインの中でも最も「ボリューム感」のある一本。丸山が花陽浴で誰かにご馳走するなら、まずこれを選ぶ。
抜栓した瞬間の香りは、花陽浴の真骨頂。完熟パイナップル、マンゴー、ライチが折り重なる濃密な南国果実のアロマが部屋を満たす。八反錦版や美山錦版の涼やかさとは対照的に、雄町版は香りそのものに厚みと甘さがあり、グラスを近づけるだけで満たされる。無濾過生原酒のガス感が、その濃さに瑞々しさを与えている。
含むと、雄町ならではのふくよかな旨みと花陽浴のジューシーな甘みが一体となり、口中で大きく膨らむ。日本酒度はかなり甘の設計(編集部推定 -3前後)だが、雄町由来のしっかりした酸と微発泡が支え、ベタつかず奥行きのある余韻へと続く。山田錦版が「華やかな甘旨」なら、雄町版は「濃醇で力強い甘旨」。冷酒(6〜10℃)でその密度を存分に味わいたい。温度が上がると甘さが勝つため、冷たいうちに。
ペアリングは、豚の角煮やうなぎの白焼き、鴨のローストなど、こちらも厚みのある料理。雄町の旨みが脂やタレに負けず渡り合う。ブルーチーズのような個性の強い食材とも拮抗できるのが、この米の懐の深さだ。繊細な前菜よりも、しっかり味の主菜と合わせたい。
価格は四合瓶で定価2,800円前後と、花陽浴の中ではやや高めだが、その密度を考えれば納得の設定。日本酒度・酸度は蔵非公表で、数値は酒質からの編集部推定だが、味の方向性は花陽浴の中で最も濃醇・甘口寄りと考えてよい。花陽浴の華やかさを「最大限の濃さ」で味わいたい人に、この備前雄町版を薦めたい。