

定番の山廃純米酒が「燗の基準書」だとすれば、こちらの山廃純米大吟醸は同じ蔵が山廃の力強さを大吟醸の精緻さで包み直した一本だ。原料米は特A地区の山田錦、精米歩合は45%。普段の純米酒(精米60%・五百万石)とは出発点からして違い、雑味の少ない澄んだ骨格の上に山廃由来のコクが乗る。
香りは華やかすぎず、含み香に黄桃やわずかな乳酸的ニュアンス。山廃の酸はしっかりあるが、磨きが深いぶん角が取れていて、純米酒で感じる「攻める酸」よりも丸みがある。日本酒度+2、酸度1.5という数値どおり、やや旨口寄りで余韻に米の甘みが長く残る。
私が天狗舞の中でこのSKUを推す理由は、山廃と大吟醸という本来相反しがちな二要素の折り合いにある。磨きすぎると山廃の個性が消え、磨かなければ大吟醸の上品さが出ない。その綱渡りを45%という絶妙な精米歩合で着地させているのが車多酒造らしい設計だ。
温度帯は冷やしすぎず10〜15℃が良い。冷酒では香りが締まり、常温に近づくほど山廃のふくらみが開く。山廃純米酒のように熱燗で攻めるより、少し温度を上げたぬる燗までが守備範囲という印象。
ペアリングは石川らしい煮物との相性が抜群で、鶏の治部煮やぶり大根といった出汁と醤油の料理に寄り添う。四合瓶で3,200〜4,000円。日常の山廃純米から一段上がりたいときの、わかりやすい「次の一本」だ。