

「文政六年」は車多酒造の創業年(1823年)をそのまま冠した純米吟醸で、GI白山の認定産品でもある。山廃の濃いイメージで語られがちな天狗舞の中では、もっとも素直で端正な顔をしたSKUだと思う。原料は地元の五百万石、精米歩合55%、酵母由来の吟醸香を素直に立てた設計だ。
山廃純米酒や山廃純米大吟醸が「酸とコクで押す」酒なら、こちらは引き算の酒。日本酒度+3、酸度1.6で、口当たりは軽やかに始まり、五百万石らしい締まった旨みがすっと通り抜ける。山廃仕込みではなく速醸系の吟醸らしいクリーンさが、同じ蔵の山廃ラインとの明確な差別化点になっている。
香りはリンゴや洋梨を思わせる穏やかな吟醸香。華やかさを誇張せず、食卓で邪魔にならない範囲に抑えているのが好印象だ。冷やして7〜12℃あたりが最もバランスが良く、温度が上がると旨みが前に出てくる。
GI白山の地理的表示が示すとおり、白山の伏流水と地元米で土地を表現した一本。派手さで勝負するタイプではないので、香り重視の人には物足りないかもしれないが、食中の汎用性は天狗舞の中でも随一だ。
ペアリングは白身魚の刺身、天ぷら、加賀れんこんの炊き合わせなど、淡い味付けの和食。四合瓶で1,800〜2,400円と手に取りやすく、天狗舞=山廃という先入観を一度リセットして飲んでほしいSKUだ。