

栃木県栃木市西方町、文化8年(1811年)創業の飯沼銘醸が醸す「姿(すがた)」の純米吟醸を、編集部で抜栓してみた。かつては別銘柄を主力としていた蔵が、若い造り手の手で立ち上げた新しい看板が「姿」で、いまや栃木の人気地酒として全国の専門店で見かけるようになった。グラスに注ぐと、無濾過生原酒らしいうっすらとしたガス感と、わずかに霞んだ淡い色合いが現れる。香りで押すというより、ジューシーな旨みで攻めてくる現代的な造りだと、注いだ瞬間から伝わってくる。
香りは、メロンや洋梨を思わせる吟醸香に、雄町由来の含み香が重なって立ちのぼる。派手すぎず、かといって控えめでもない、ちょうど食欲をそそる絶妙な強さ。岡山ルーツの酒造好適米「雄町」を55%まで磨いて使い(SKUによりひとごこち等の年もあり、ここでは雄町を代表として採用)、米の旨みを生かす方向に振った設計が、この厚みのある香り立ちによく表れている。
口に含むと、まず微発泡のピチピチとした刺激が舌を撫で、続いて雄町らしい甘みと旨みがふくよかに広がる。日本酒度±0前後・酸度1.7という数値どおり、甘さと酸のコントラストがはっきりしていて、ジューシーでありながらだれない。後口は酸がきれいに引き締めてくれるので、甘旨系でありながら重たくならず、次の一口を誘う。アルコール度数は16度前後で、原酒としては飲みやすい部類だ。
温度帯は、よく冷やした冷酒(6〜10℃)でガス感と甘旨のフレッシュさが最も際立つ。少し温度が上がってくると雄町の旨みがさらに開き、味の重心が下がって落ち着いた表情になる。生原酒なので開栓後は日を追って味が乗ってくるのも面白く、数日かけて表情の変化を追える一本だ。
ペアリングは、甘旨と酸を生かして少し脂やコクのある料理に当てたい。中トロやサーモンの刺身、タレ焼きの焼き鳥、豚の角煮、唐揚げといった、味の濃い肴に酸がよく寄り添う。価格は四合瓶でおおむね1,700〜2,000円(720ml実勢)。淡麗辛口が主流だった栃木にあって、ジューシーな甘旨で新世代の存在感を示す一本として、飲み手の記憶に残る酒だ。